「転職回数が多いと、やはり不利になるのでしょうか?」
キャリア相談を受ける中で、最も多く耳にする質問の一つです。 特に30代中盤以降、キャリアアップを目指そうとした矢先に「回数の壁」に直面するケースは少なくありません。
結論から申し上げます。 残念ながら、日本企業の約8割は、転職回数が多いというだけで機械的に書類選考で不採用にします。
しかし、諦める必要はありません。残りの「2割」の企業は、回数よりも実力を正当に評価しますし、戦略次第で「回数の多さ」を「経験の豊富さ」に変換することも可能です。
本記事では、採用市場における「転職回数のリアルな許容ライン」と、回数が多い方がハイクラス転職を成功させるための具体的な戦略を解説します。
なぜ日本企業は「転職回数」をこれほど嫌うのか
まず、敵を知ることから始めましょう。なぜ多くの日本企業(特にJTCと呼ばれる伝統的大手企業)は、スキルを見る前に「回数」で足切りをするのでしょうか。
理由はシンプルで、「定着性(リテンション)への懸念」です。
採用には数百万円単位のコストがかかります。人事担当者や現場の責任者にとって、最も避けたいリスクは「採用した人材がすぐに辞めてしまうこと」です。 転職回数が多い職務経歴書を見た瞬間、彼らの脳内には以下のバイアスが働きます。
- 「嫌なことがあるとすぐに辞めるのではないか?(堪え性がない)」
- 「組織に馴染めないトラブルメーカーなのではないか?」
- 「一貫性のないジョブホッパーではないか?」
特に、コンプライアンスや長期雇用を重視する大手企業や、堅実な経営を行うPEファンド(プライベート・エクイティ)などは、この傾向が顕著です。どんなに優秀でも、回数が多いだけで「リスク人材」として扱われるのが現実です。
【年代別】転職回数の「セーフライン」はどこまでか
では、具体的に「何回まで」なら許容されるのでしょうか。 業界や職種にもよりますが、一般的な日系企業が「違和感を持たない」限界ラインは以下の通りです。
20代:2社まで(3社目は黄色信号)
20代はポテンシャル採用の要素が強いため、1回の転職はむしろポジティブに捉えられることもあります。しかし、20代で3社目(2回以上の転職)となると、「飽きっぽい」「忍耐力がない」と判断されやすくなります。
30代:3社まで(4社目は黄色信号)
30代は即戦力として期待されますが、 동시에 組織の中核として長く働いてくれることも求められます。3社(転職2回)までは許容範囲ですが、4社目以降になると書類選考の通過率がガクンと下がります。
40代:4社まで(5社目は黄色信号)
マネジメント経験や特定の高度な専門性があれば、多少の回数は目をつぶってもらえます。しかし、それでも5社以上となると、「渡り鳥」のような印象を与え、よほどの実績(「指名」されるレベル)がない限り、正攻法の応募は厳しくなります。
転職回数は「信頼のチケット」である
転職回数は、あなたが持っている「社会的信用のチケット」の残り枚数だと考えてください。 若い頃に安易にチケットを浪費してしまうと、いざ30代後半、40代で「本当にやりたい仕事」「大きなポジション」が目の前に現れた時、チケット切れで挑戦権すら得られないという事態になりかねません。
「回数の多さ」をカバーする唯一の武器:ブランド
ここで一つ、重要な例外があります。 それは「社格(ブランド)」です。
もしあなたが、以下のような「正統派」の難関企業に入社し一定の期間働いたなら、転職回数が多少多くても有利に働くことがあります。
- 外資系戦略コンサルティングファーム
- 外資系投資銀行
- 外資系消費財メーカー(P&Gなど)
理由は、これらの企業で徹底的に叩き込まれる「ビジネスの基礎体力」への信頼があるからです。 「あの会社で揉まれた人材なら、基礎は間違いないだろう」という信頼が担保となり、転職回数の多さを「多様な経験」としてポジティブに解釈してもらえる可能性が高まります。
正直なところ、大手の外資系戦略コンサルティングファーム(特にジュニア〜ミドル層)や外資系消費財メーカーは、テック企業や金融専門職などと比較して、給与水準がそこまで高くないケースも多々あります。 しかし、正統派企業で得るべきは短期的な年収の最大化ではなく、一生使える「ブランド」です。
そのことを頭に置いて、できるかぎり5年間は在籍してください。 「あの会社で5年生き残った」という事実は、その後のキャリアにおいて、転職回数の多さを相殺する強力な武器になります。
転職回数が多い人が書類選考を突破する3つの戦略
では、すでに「セーフライン」を超えてしまっている人はどうすれば良いのでしょうか。 ここからは、回数が多い人がハイクラス転職を成功させるための具体的な戦術をお伝えします。
1. 攻めるべき「2割」の企業を見極める
前述の通り、日本企業の8割(大手、伝統企業、銀行系など)は回数を嫌います。ここに正面から挑んでも勝率は低いです。 狙うべきは、実力主義を徹底している「残りの2割」の企業です。
- 創業者系オーナー企業: 社長の一存で決まることが多く、「面白い経歴だ」と評価されれば即採用もあり得ます。
- 変革期のスタートアップ(メガベンチャー含む): 急成長中で背に腹は代えられない状況、かつ多様性を好むカルチャーがあります。
- プロ経営者が入ったファンド投資先: 結果(数字)を出せるなら、過去の経緯は問わないというドライな判断をします。
これらの企業は、「定着」よりも「短期間での成果」を求めているため、転職回数を「修羅場の数」「変化への適応力」として評価してくれる可能性があります。
2. 職務経歴書を「編年体」から「キャリア式」に変える
職務経歴書をただ時系列(編年体)で書くと、どうしても「社名の羅列」が目立ち、「また辞めたのか」という印象を与えてしまいます。 回数が多い場合は、「キャリア式(プロジェクト単位・スキル単位)」のフォーマットを活用しましょう。
【ポイント】
- 軸を通す: 複数の会社を渡り歩いているが、「一貫して〇〇のスキルを高めてきた」「〇〇という課題解決を行ってきた」という「軸」で経験をグルーピングします。
- 社名の印象を薄める: 「どの会社にいたか」よりも「何をしてきたか」を強調するレイアウトにします。
3. 退職理由をすべて「一つのストーリー」で繋ぐ
面接で必ず聞かれる「なぜこんなに転職が多いのですか?」という質問。 ここで「人間関係が…」「飽きたので…」「給与が…」とバラバラの理由を答えるのはNGです。
すべての転職に一貫した「ポジティブな目的」を持たせてください。
- 例:「私は一貫して『事業再生のスペシャリスト』を目指してきました。1社目では財務を、2社目では営業改革を、3社目では組織マネジメントを学び、それぞれのフェーズで役割を全うしたため、次のスキルを得るために転職しました」
このように、「目的のための戦略的な移動であった」というストーリー(後付けでも構いません)を構築し、面接官を納得させることが不可欠です。
外資系出身者が陥る「JTCへの帰還」の罠
最後に、外資系企業(特にテック系)を中心にキャリアを積んできた方への注意点です。 外資系では「2〜3年ごとの転職による年収アップ」は常識ですが、その感覚のまま30代後半・40代を迎え、いざ日系企業の役員・部長クラスを目指そうとすると、激しい拒絶に遭うことがあります。
「外資の論理」と「日系の論理」は別物です。 もし将来的に日系大手への転職も視野に入れているのであれば、転職回数の「セーフライン」は守ることことを強くおすすめします。
まとめ:チケットは有限。戦略的に使おう
- 日本企業の8割は「転職回数」で足切りをする。
- 年齢別の目安(20代:2社、30代:3社、40代:4社)を超えると難易度は跳ね上がる。
- ただし、「ブランド企業での長期在籍」がある場合は多少緩和される。
- 回数が多い場合は、「実力主義の2割の企業」を狙い、「一貫性のあるストーリー」で勝負する。
転職回数は、あなたのキャリアにおける貴重な「チケット」です。 不運な事故(レイオフや倒産など)に備えて、チケットは常に1〜2枚残しておくのが賢明な大人の戦略と言えるでしょう。
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